気象×ICTでエネルギーと社会の未来を設計し、100年先も住みたい地球をつくる。‐ レラテック株式会社 – 代表取締役 小長谷 瑞木

小長谷 瑞木

 

経歴:

筑波大学大学院(気象学・気候学分野)を卒業後、11年間 環境コンサルタントにて、主に再生可能エネルギーに関するコンサルティング業務に従事。神戸大学大学院博士課程にも在籍し、洋上風況調査に関する研究を実施中。在職中並びに在学中に得た技術及び人脈を活かして、風力発電のための風況調査に特化したコンサルティング事業を行うために設立した、神戸大学発ベンチャー企業「レラテック(株)」において代表取締役を務める。

 

◎事業を立ち上げたきっかけを教えてください。

元々、筑波大学在学中の時から気象学を切り口とした洋上風力に関する研究をしており、前職に入社後も、洋上風力発電に関する研究開発事業に携わっていました。2016年からは神戸大学大学院の社会人ドクターという形で、洋上風況調査に関する研究を行っています。2000~2010年代における国内の洋上風力発電事業は、注目度も高くなく、研究開発や実証事業が始まったばかりの、いわゆる石橋を叩いてたような状態でした。

 

しかし、ここ数年でようやく、民間事業という形で大規模に展開できる道筋ができ、一気に盛り上がってきています。しかしながら、洋上風力発電の専門家は少なく、そこで、微力ながらも貢献できる事を検討し、神戸大学発ベンチャー企業として、風力発電のための風況調査に特化したコンサルティング会社、「レラテック(株)」を立ち上げました。

 

会社名の「レラ」は、日本北部に存在する言語であるアイヌ語で「風」を意味する言葉です。古来大自然と共生してきたアイヌは、動植物、生活の道具や家、山や湖などの自然と自然現象のそれぞれに「神」が宿るとして敬い、人間も自然の一部であると考えています。弊社の技術サービスを通して、人々の生活や文化、そして地域社会が、地球環境と共に持続可能に発展できるような想いを込めて、「レラテック(Rera Tech)」と名付けました。

 

主な事業内容は、風力発電を対象とした風況調査を専門とするコンサルティングであり、今後大量導入されると考えられている洋上風力発電の技術的なサポートをしていきたいと考えています。

◎具体的な事業内容について教えてください。

洋上風力発電を設置する前に、設置海域でどのくらいの風が吹いていて、発電効率が良いのか否かを知るために、風況調査を実施する必要があります。その風況調査の実施を含めたコンサルティング事業を行っています。

 

洋上風況調査の方法は、「観測手法」と「推定手法」に大別されます。観測手法とは、風況マストを設置する従来通りの調査方法ですが、洋上では多大なコストがかかってしまいます。そこで、近年実用化されてきているドップラーライダーと呼ばれるリモートセンシング機器を使用した観測方法も導入しています。また、推定手法という、風をコンピューター上で計算するシミュレーション技術を用いた風況の調査も行っています。

 

さらに、観測とシミュレーションで得たデータを利用した解析を行っています。解析の目的は、主に「発電量評価」と「風車設計評価」の2つに大別されます。発電量評価は、風車を設置する前に、その地点における発電量予測を行うことで、事業性・採算性を事前に把握することを目的としています。また、発電事業に対する社内の意思決定や、事業に対する銀行融資に必要となる第三者評価も担っています。風車設計評価は、風車自体の安全性に関わることです。風車が設置された後も、台風や乱流によって倒壊や故障することなどがないように、安全基準に適合できるよう、風条件を事前に調査しています。

 

このように、風況調査を構成する観測、シミュレーション、解析には、いずれも風力発電における市場や関連技術の発展に伴い、最新技術を適用することが非常に重要です。

◎実際に創業から1年経って、振り返ってみるとどうでしたか?

会社設立の前に、設立メンバー4人で意見交換し、国内の洋上風力発電市場が抱える課題に対して何ができるのか、自分達で課題を解決しようという思いでレラテックを立ち上げました。設立するまでには約半年を費やしました。設立時はゼロからのスタートで、私を含めたメンバー全員が技術者で、専門と異なる分野の調整なども大変でした。皆経営に長けている訳でもなく、経営をしながら、経営の勉強をしている様な状態でした。風況観測は1年間以上の長期にわたって行うので、受注から売上までのスケジュールや高額な観測機械の資金調達などの調整を、金融機関と相談しながら進めてきました。何事においても勉強しながら進めている、今はそんな段階です。

 

ただ、設立当初は不安要素が多くありましたが、社員や周囲の方々からの助けもあり、何とか進めてこられたと思っています。創業1年目のベンチャー企業にも関わらず、コンサルタントとして多くのお仕事を頂けたことは非常に嬉しい事だと感じました。これに関しては私だけではなく、設立者をはじめとしたメンバーの技術力の高さや考えが正しかった事という事を実感しています。

 

◎洋上風力発電事業は今後どのようになると思いますか?

国内の洋上風力発電市場は、この先10年間で460倍に成長していくだろうと予想されています。経済産業省の発表によると、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000kW~4,500kWの案件を形成するという具体的な洋上風力の導入目標が掲げられており、将来的な再生可能エネルギーの主力電源として期待されている状況です。SDGsによる取り組みもありますが、気候変動エネルギー政策などの背景のもと、再生可能エネルギーの導入を増やしていくことは命題になっています。その中で、日本において洋上風力が注目されている大きな理由は、海に囲まれた立地条件のため風車を大量導入しやすいという点です。また、関連産業が幅広いので経済波及効果も見込めるという特徴もあります。

 

2000年頃から民間事業が開始されているヨーロッパの各国と比較すると、日本の洋上風力発電の導入状況は大きく遅れをとっています。また、ヨーロッパと日本を比較すると、日本は平均風速が低く、水深が深いため、洋上風力にとっては難しい開発条件と言えます。さらに、台風による暴風や地形起因によって発生する乱流などに適応した風車設計にする必要があることから、海外の技術をそのまま転用できないという課題があります。

 

◎今後のビジョンや事業展開を教えてください。

レラテックは、神戸大学発のベンチャー企業という立場を活かして、神戸大学で開発された最新技術を用いて、観測、シミュレーション、解析に係る研究を実施し、その研究結果をもとにしたコンサルティングサービスを民間事業に提供しています。さらに、そこで得られた結果を研究成果として大学にフィードバックする、この循環によって洋上風力発電に関する研究の発展にも貢献し、産学連携の枠組みを形成する立場を担っていきたいと思っています。

 

国内の洋上風力発電市場は黎明期と言えます。法令や認証制度、さらにはガイドラインなどが現在進行形で整備されている発展途上の段階ですが、産学連携の枠組みを活用した風況のスペシャリストとして、風力発電の正しい導入の道しるべになりたいと考えています。

 

事業に関しては、これから先の数年は洋上風力に関する風況調査がメインの事業になるかと思いますが、現在でも風力発電以外のご相談も頂いています。今後は「気候×ICT技術」を一次産業に適用したいと考えており、具体的には農業や漁業における適応策などに貢献したいと考えています。

 

‐ 今回インタビューしたレラテック株式会社様の情報 –

会社HP:https://rera-tech.co.jp/