寛容な社会を創造し、彩りある暮らしを実現する。‐ 一般社団法人Hito Reha 代表理事 横山 翼

今回は、一般社団法人Hito Reha 代表理事の横山さんにインタビューしました。理学療法士として障がいを抱える方と病院で関わる一方で、温泉やカフェに行っても障がいを抱えた方やその家族を見かけたことがなかった事に疑問を感じ、障がいを抱える方がチャレンジできる地域社会の創造を目指して起業した経緯や苦労について話を伺いました。

一般社団法人Hito Reha 代表理事 横山 翼

経歴:

  • 藍野大学 医療保健学部 理学療法学科 卒業
  • 2014年~宮城県石巻市 移住
  • 2014年~医療法人社団仁明会 齋藤病院
  • 2018年~一般社団法人りぷらす
  • 2020年~一般社団法人Hito Reha 代表理事
  •      一般社団法人石巻震災伝承の会 監事

 

◎起業のきっかけを教えてください

ある時、脳性まひという病気を抱えた20歳ぐらいの子が、プールはあるけど、海に入った経験がないから、入ってみたいという相談を頂きました。私たちにとって、夏のレジャーといえば海水浴って当たり前だと思うんです。だけど、当たり前が当たり前じゃないという世界があることを、改めて認識しました。

 

私たちにあって、障がいを抱える子達の日常にはなかったことを取り戻していくお手伝いを実際にやろうと、誰もが楽しめるユニバーサルビーチを開催しました。そこから、自分の中で疑問に思う事が増えました。私は温泉やカフェに行く事が好きですが、そういう場所で障がいを抱えた方と出会うことないなという事に気づきました。この子たちの日常は何なのか、という事を真剣に考えるようになりました。

 

例えば、障がいを抱えた方と大手コーヒーチェーンに行くと、店員さんは慣れてるので、誘導してくれますが、違うカフェだと結構見て見ぬ振りをされることもあります。1つ1つのお店によって障がいへの認識も全く違うだろうし、温泉などの施設もまだバリアフリーに対応しているところはまだ少ないんです。

 

でも海に入りたいと挑戦する子がいるように、「障がいを抱える方でも、日常にないものを乗り越える力」はあると思っています。障がいを抱えた方が、まだ見ぬ景色や姿が見えるまで、そのきっかけを人や地域を繋ぎながら創ることができるのではないかと考えるようになり、それが創業に至る経緯になります。きっと、障がいを抱える方やその家族の心の声が、人を動かし、地域を巻き込み、新しい繋がりを築くことが出来ると私たちは信じ、そんな想いを乗せて当法人を設立しました。

 

◎石巻市で活動されている理由はなんでしょうか?

きっかけは、東日本大震災です。実は、同じ時期に家族を無くしていて、すぐには震災に向きあえませんでしたが、発生から二年経った時に復興支援という形で、沿岸沿いを福島から陸前高田まで上っていきました。福島では二年経っていても原発の影響で人がおらず、区域にも入れず驚きました。石巻市に着いた際に、復興に向かって賑わいを取り戻そうと皆が一生懸命やっている現状に心を打たれ、私も何かできる事がないかと思い、移住を決意しました。

 

初めは、病院に勤めながら、街づくりのお手伝いをさせてもらいました。最初は何もできなかったんですが、一年ぐらい居ると色んな人たちと繋がりができ、「手伝ってくれないか」とお声をかけて頂けるようになりました。

 

石巻市は高齢化率が高かったので、出歩かない不活発な方が増えてきていて、健康上の問題がありました。そういった課題に一人で向き合うのではなく、住民を巻き込みながら一人でも多くの人に街のことを考えてもらい、街を活発化していきたいという思いで街づくりに携わりました。

 

◎事業内容について教えてください

「障がいを抱える方とその家族を誰も取り残さない地域を創る」をテーマに、一般社団法人HitoRehaは障がい福祉事業を行っております。私やメンバーは理学療法士・作業療法士というリハビリの専門職種で、病院や介護施設などで働いてきました。その経験の中で、制度の中では生活することが難しい方や、制度を使っても救われてない、生きづらさを感じてるような方が多くいらっしゃることを知りました。国の制度にとらわれず、苦しい思いをしている方を一人でも多く支援していこうというのが、大きな目的です。

 

事業は、オンラインコミュニティ事業とライフスタイル事業の二つあります。オンラインコミュニティ事業では、障がいを抱えている子の育児をされている親御さんの相談対応や、親御さん同士が雑談をできるようなコミュニティルームを作っています。実は、障がいを抱えてる方の育児に励まれている親御さん達の雇用の現状は良くなかったり、抱えてる想いがあまり社会に伝わっていないんですよ。本当に身近で支援している人でさえ、誤解しているということがよく見受けられるので、親御さんと一緒に正しい情報を発信し、新しく雇用を生み出せるように、現状や想いを冊子「Piece」に掲載し世に広めていくという活動をしております。

 

ライフスタイル事業では、私たちが今居住してる宮城県石巻市の鹿妻という地域で、障がいがある方を支援している就労支援事業者さんと、その町に存在する企業、商店や個人事業主さんと一緒にマルシェなどを展開させていただいています。障がいを抱える方が地域に馴染んで、居場所や役割が自然にある街づくりをしています。

 

◎制度を活用できないとはどういうことでしょうか?

例えば、小学生の障がいを抱えた子がいたとしましょう、その子は頑張って学校に通っているんですが、障がいを持ってることによって、偏見のまなざしを受けたり、他の子とのトラブルがあったりして、学校が行きづらくなったりとかもするんです。今は支援学級があり、普通学級と分けることで、なんとかリカバリーできる状況もありますが、それでも通うことが難しくなって不登校になってしまう子も多いんです。そうすると、放課後等デイサービスという障がいを抱える方が通う児童クラブがありますが、そういう制度を使えないんです。放課後等デイサービスは、学校に通ってる子がいく場所なので不登校だと対象外になってしまいます。学校や放課後等デイサービスの手厚い支援が受けられないとなると、親御さんが家で見ないといけないようになり、仕事を辞めなくてはいけない状況になったり、ずっと家にいる状態が続くことで、お子さんもご家族にもストレスがかかってしまうんです。

 

不登校の子のサポートとして、フリースクールがあると思いますが、フリースクールは居場所づくりがメインなので、障がいの子たちに特化した支援をしてくれるかっていうと、そうではないんですよね。ちゃんと支援をしていくという形で療育をしていただけるところはやっぱり少ない。そんな生きづらさがあるということが、社会には伝わってないんです。

 

日本の障害福祉の歴史は昭和20年頃から始まっていますが、しっかりと利用者さん自身がサービスを選べるようになってからは、まだ20年ぐらいなんです。なので、皆さんも障害福祉の事を詳しく知らないんです。初めて障がいのある子を育てる時に、制度の紹介や活用方法など、正しい情報を伝える事で、悩みや心配事を解決するお手伝いをしています。

 

◎起業後はなにをされましたか?

まずは、ウェブサイトとロゴを作成し、テストマーケティングをして市場の反応を見ました。プロトタイプだったサービス内容を、ベータ版で修正しながら運用していたんですが、顧客調査から得たものを活用し、手ごたえを見ながら、プラットホームの選別などを行っていました。

制度と制度のはざまにいる方を救っていくという事は、世の中にないものを打ち出すということなので、やってみないと分からないことだらけですね。テストマーケティングをするなかで、新しい発見が沢山あり、顧客の声を聞くことで、今ないものを探していけるんだなと実感しました。

 

オンラインコミュニティ事業の方向性が定まったのも2021年の12月なんです。それまでは、価格帯や相談窓口の形態など調査をして、やっと始動しました。ライフスタイル事業は2021年6月に始動しましたが、準備段階では、街の調査をしていました。アンケートではなく実際に街を歩いて、社会福祉協議会や教育に携わる方たちと繋がり、街がどうやって生まれたかなど、文化について調べました。そうすると、この街は、ある町のとある町の間に生まれたので、独自の文化がない事に気づいたんですよね。だったら私たちで、新しい文化を作ったら良いと思いました。街の課題と私たちの想いを掛け合わせて作ったのがライフスタイル事業です。ありがたいことに、既にマルシェを二回開催できました。

◎マルシェはどんな目的で開催したのでしょうか?

マルシェには、地域の方と、障がいを抱える方、放課後等デイサービスや就労支援事業者の皆さんも呼びました。地域の方に、障がいを抱える方が普通に遊んでる状況を見ていただき、こういう風に接してくださいと一声かけました。障がいを抱えているかどうか、見た目には分からないので、皆さんびっくりされていました。最後に「普段障がいを抱えた方と接しますか」とアンケートを実施したんですが、3割の方があると回答し、その方達がほぼ全員、「この街にも障がい者への差別が有る」と回答しました。

 

私たちがマルシェをやる意義の一つがインクルーシブ教育とノーマライゼーションです。障がいのある子がのびのびと過ごし、それを見た周囲の人の障がいに対する意識を変えていきたいと思っています。

◎オンラインコミュニティ事業をやってみてどうでしたか?

まず、皆困っているんだなということがよく分かりました。放課後等デイサービスや児童発達支援事業所が沢山あるのに、なぜご家族は悩むんだろう、ちゃんと対応してるのにって思いますが、本当は対応できないという事がわかりました。家族が悩んでるポイントに、答えるための知識や技術が足りないことも分かりました。

 

そもそも、相談支援センターの予約が三か月待ちという現状があるんです。相談時間も一人当たり一時間程で、質問内容にざっくりしか回答せず、また困ったら相談しに来てくださいとなることが多いんです。というのも、子供が何かおかしいなと疑問に感じ、どんな障がいを持っているのか相談しに行っても、「学習障害です」や「自閉症の傾向があります」って、スパッって言えないです、傷ついてしまうので。なので質問を濁されてしまうんです。

 

他にも、例えば言葉がしゃべれない4歳ぐらいの子がいたとして、ご家族は、どうすれば喋れるようになるんですかと相談支援センターに伺っても、言葉を出せる理屈や身体の仕組みを理解していないと、答えられないんです。そうすると、悩みが解決せず、いつの間にか大きな問題になってしまうこともあるんです。

 

初めての子育てで、障がいを持つ子を持つと、どうしても肯定的にみられないご家族は多いですよね。ちゃんと状況や、お母さんの状態を聞いてあげることが大切なんです。

 

◎事業立ち上げ後、苦労はありましたか?

最初は本当に苦労しました。実績がないので、こういう風な世界を作りたい、困ってる子たちを助けたいっていうビジョンをとにかく一生懸命伝えました。経営についても分からないことだらけだったので、同時期にグロービス経営大学院に通い、経営のノウハウを学びました。ただ、一番大変だったのは新型コロナウイルスが蔓延したことですね。

 

2020年の2月に設立したのですが、当初想定していた事業プラン通りには全くいかず、痛い思いをしましたね。1件1件電話して、訪問看護の了承を頂いた利用者さんの所に、感染対策を徹底しながら伺ったので、訪問予定件数に到達できなかったんです。

 

また、私たちの事業を上手く周知できなかったんです。本来は、イベントを開催して認知していただく予定だったんですけど、もちろん開催できず。タイミング的にはかなり難しかったです。元々、介護や福祉の業界は情報過多になっているので、やはり事業計画は、口コミを前提として作るべきだと思いました。まずは目の前にいる一人に信頼してもらえるように想いを伝える作業を怠ってたなと反省しました。オフラインが駄目だったら、オンラインで広告を打てばいいと考えていたのは、甘かったです。

 

◎今後のビジョンを教えてください

オンラインコミュニティ事業では、雇用問題に取り組みたいと考えています。2017年時点で健常児を育児している母親の常勤雇用率は34%なんですが、障害児を抱えている母親の常勤雇用率は5%しかないんです。非正規雇用の場合でも、健常児の母親が71%に対して、障害児の母親は49%と、大きく差が開いているんです。問題なのは、差があることよりも、雇用されたいと思っている方が57%いらっしゃることなんです。その数は、全国に推定17万人ぐらいいらっしゃいます。雇用を生み出す仕組み作りにチャレンジしていきたいです。オンラインコミュニティで相談してもらって、すっきりするだけじゃなくて、新しいことを社会に発信したり、働ける機会を作ってみたいと思ってもらえるようにすることが次の段階に進んでいくポイントです。

 

ライフスタイルの事業は、障がいを抱える方の目標である一人暮らしをサポートしたいです。障がいを抱える方の多くは、B型就労支援を活用し、給料を貰ってはいるのですが、健常者との賃金格差は大きいので、なかなか一人暮らしをするまでの資金的余裕がないんですよね。衣食住を共にできる地域を育てる為に、マルシェで地域との接点を生み出し、生きやすさを作っていきながら、気軽に一人暮らしがチャレンジできるようにシェアハウスを作ろうと構想しています。ご家族は、自分たちが先に他界してしまい、守る側が居なくなったときに、一人で生きていけるだろうかということを一番心配されています。自立できるシェアハウスをつくり、寛容な社会を創造し、彩りある暮らしを実現していきたいです。

 

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