ロボットとAIで100年企業を作りたい。 – 代表取締役社長 小野 泰助

ドーナッツロボティクス株式会社は、見守りロボットの「cinnamon(シナモン)」と、翻訳 可能なスマートマスク「C-FACE」の開発・販売を行い、アフターコロナの世界に挑むロボットベンチャー企業です。ニューヨーク タイムズ紙・ニューズウィーク誌などに特集され、海外メディアから「トップ ジャパニーズ スタートアップ 2021」大賞を受賞。「CES 2022」(世界的IT機器見本市)にも出展予定という話題の企業です。

22歳で起業し、多くの失敗を経験し、注目される企業を作ってきたドーナッツロボティクスCEO、小野 泰助さんに「市場選びの重要性とロボット企業の将来」ついて伺いました。

○ドーナッツ ロボティクス 小野CEO

小野 泰助 -ドーナッツロボティクス株式会社 代表取締役/創業者-

経歴:

老舗企業 創業者の血を引くが、14歳で父を失くし、プロダクト デザインを独学で身につける。 大学卒業後、起業し、数々の失敗をしながら「デザインの匠」としてテレビ出演多数。2016年、北九州のガレージで、小型ロボット「cinnamon(シナモン)」をデザインし、ドーナッツロボ ティクス株式 会社を設立。

 

ガレージでの創業から5年でCES出展

 

-設立するまで多くの失敗があったと他のメディアで拝見しました。詳しく教えてください。

はい。僕は、小学校低学年から電子手帳を使っていた変な子供だったんです。新しいモノが大好きでしたね。

22歳で会社を作って色々な業種の事業をしたんですが、どれも失敗でしたね。(笑)でも、すべての事業でデザインだけは、こだわっていました。

僕は14歳で父を亡くしていますが、失敗する度に「亡くなった父の分まで頑張らなければいけない」「失敗したままでは終われない」という気持ちが出てきて、なんとか立ち直ってきました。

そして、40歳を前にし、「さすがに もう失敗できない。」と、これまでとは真逆の考えを実践したんです。

 

-真逆の事とは具体的にはどのような事でしょうか? 

「人口が減るほど需要が増える業界」で事業を立ち上げる事ですね。

それまでは、人口が減ると悪影響を受ける事業ばかり選んでいたんです。業界選びの理想は「リスクは小さく、可能性は青天井」なんですよね。AIやロボット業界は将来性は最高ですが、リスクは ハードウェア設計や金型に大きな費用がかかる事と、いつ普及が始まるのか誰にもわからない点なんですよね。

そこでクラウドファンディングで受注生産をする事で、金型などの費用のリスクを減らそうと考えたんです。

そして、2016年に「100年企業を作りたい。」という思いも込めて、資本金100万円で ロボット企業をスタートしました。

(※現在のドーナッツ ロボティクスの企業価値は、数十億円とも言われている。)

 

-業界や市場が重要と考えられていたんですね。

そうですね、100年以上先に隆盛を極める業界を選べば、もし1位になれなかったとしても、他の企業から出資や買収を持ち掛けられて生き残れるかもしれません。

例えば、その市場の1位がGoogleだとしたら、2位の企業には、GoogleのライバルのAmazonや Facebookから声がかかる・・ようなイメージなんです。

一方で、斜陽な業界の場合、1位以外が生き残るのは厳しく、失敗すると即 退場なんです。

 

今、世界に車メーカーは 何社ありますかね。本当の成長産業ならば、5位〜6位ぐらいまでは残れると考えています。

 

-設立されてからまず、どのような準備をされましたか?

最初は「cinnamon(シナモン)」という小型のロボットの試作機を作りました。 今でこそロボットやAIは有望な業界と言われますが、当時はpepper君もいなかった時代なので周りからは「ガンダムかドラえもんを作るのか?」「デザインの分野で成功してきたのに、頭がおかしくなったのでは?」と言われていました。

20社以上のVCから出資を断られ、日の当たらない時期は長かったです。 ただ、自分としては、この業界は、いずれ注目されると確信していました。

○小型ロボット cinnamon(シナモン)

 

-「cinnamon(シナモン)」を作る際に意識している事は何でしょうか?

僕は本当に人としては駄目な所ばっかりなんですが、デザインや感性だけは自信がありました。ちなみに小型ロボットの「cinnamon(シナモン)」の設計は黄金比を使っています。人は黄金螺旋の曲線を見ると、何故か安心するとも言われます。それを使われたモノは、この世界では自然と発展していくのかもしれないです。

 

ちなみに、ロゴも黄金比から出来ていて「100年先に隆盛を極めるロボット企業」をイメージして作ったんです。それが ドーナッツに見えたから社名に選びました。

社名は、いつかは海外でも販売したかったので、世界中の誰もがわかる単語を選ぶ事も重要でした。日常的に接するようなお菓子の名前なら、ユーザーの心がオープンになるし、プロダクトに親しみを持たれますね。

 

また、会社やプロダクトのネーミングでは、頭文字のアルファベットに注意しています。弊社のプロダクトの頭文字は「C」で始まります。諸説あるんですが頭文字に「C」をつけると、人は その製品を未来的に感じると言われています。社名には「D」をつけているのですが、「D」という音は未来的とは逆で、人の心を震わせるような音なんです。今までロボットといえば工場の中で稼働している少し冷たいイメージのものだったのですが、これからは人に寄り添い、可愛いと言われるようなロボットが普及するだろうと僕は思うんです。

プロダクト名には未来的で洗練された「C」、ブランドイメージを左右する社名には振動音で温かい「D」を使い、バランスを取ってみました。

 

-失敗してきた事業ではデザインに黄金比を取り得れていましたか?

取り入れてないですね。20代から色々なプロダクトをデザインしたんですが、その頃は、まだ今のような知識を持っていなかったです。

意識して使い始めたのは、30代後半で「デザインの匠」としてテレビに出演するようになった頃ですかね。

番組では「何故このデザインになったか」を、視聴者に客観的に説明する必要があったんです。なので、誰にでもわかるデザインのロジックを意識する様になって、黄金比を使ったんです。

 

この世界では、数字や音にも深遠な意味があって、人はその影響を受けているのかもしれないです。言葉にするのはちょっと難しいですね。長いどん底を経験して、こんな独自理論を身につけてからは「自分はおそらく何をやっても成功できる」と思うようになったんですよね。

 

-新規事業の軸など決めていましたか?

ハードとしてのロボットの軸だけでなく、それを動かすソフトも大事だと思っています。AI開発は、巨大企業や国に任せるもの・・と考えていますが、僕らも機械学習を使ってニッチな分野の音声認識精度を向上させようとしています。

 

また、ロボットだけでなく、メガネ、イヤホン、スマホなどをIT化させて再定義していきたいです。マスクの再定義がスマートマスクですね。ロボットはまだ普及した事がないですが、これらの製品は既に世界にあるものなので、普及のハードルが低いですね。

 

これはまだ妄想ですけど、いろんなモノを研究して再定義した先に、僕たちはいつか意識を持った人型ロボットを作りたいんです。すっごく遠い先ですが、意識をコンピュータにアップロードできるようになると、いずれ人はパソコン画面の中で暮らせるかもしれないです。そして、その意識でロボットを動かす事ができるかもしれない・・。とにかくロボットにはソフトとハード、どちらも絡んでくるので少しずつ頑張っていきます。

○将来の製品イメージ

 

-コロナウイルスが流行り始めてからの商品開発が非常に早かった様に感じます。何故先んじて開発が出来たんでしょうか?

僕らは、もう長く小型ロボットを開発していて、コロナの感染拡大前に翻訳ソフトが完成していたんですよね。ハード開発にも慣れていて、ロボットを作るより、スマートマスクの方が簡単だと思っていました。

 

それから、2019年の秋頃ですかね。チャイナ デカップリング」(米中の分離)が起きていて、何かが起きそうな予感がしていました。また、シンガポールにも拠点があったのですが、国外の感染状況や大変さを早く知る事ができたんです。

 

日本ではまだコロナを簡単に収まる出来事と考えていた時に、シンガポールでは早い段階でロックダウンという言葉が 使われていて・・。僕は「これは本当に厳しい状況になる。」と思いロボット開発を一旦、中断したんです。社内には かなり前から「喋った言葉を文字にできるマスク」のアイデアがあったんですが、それを今こそ作ろうと思いました。

○ スマートマスク「C-FACE」

 

急成長する市場のニッチな分野を狙う。

 

-「斜陽な業界だと1位以外は残らない」とおっしゃっていましたが、ベンチャーやスタートアップの失敗の要因の1つに、斜陽な業界を選んでしまう事が多いんでしょうか?

 

そもそも、ほとんどが斜陽な業界なんですよね。

スタートアップは大手企業のように、あり余る資金はないので、基本的には投資額が小さくても戦えるニッチな分野で生き残るしかないです。

でも、これから小さくなっていく業界でなくて急成長していく業界のニッチな分野を選べば良いですよね。スタートアップが大企業に勝てるのは、スピードだけかもしれないです。「今は誰も使ってなくても、将来、誰もが使う製品」を、1番 早く発表できれば良いですね。

 

僕は「デジタルとオンラインに関する事業以外はやらない。」と自分に言い聞かせています。僕らのスマートマスクは声をデジタル化し、それをどう展開して社会に役立てるのか?という事業なんです。

 

-何かをデジタル化させるような事業でないと長期的には生き残っていけないと。

先程、話したように最終的には、意識もデジタル化されて、コンピュータ上にアップロード出来るように なるかもしれないです。

僕は1日平均11時間、スマホを見ているらしいです。これから何でもデジタル化され、さらに画面の中で生きることが多くなって、何がデジタルで何がリアルなのか?・・ますます境界線が わからなりますよね。そんな世界が正しいか?はわかりませんが流れは止まらないので、そこに関わっていければと思います。

 

-多くの失敗や理解されない苦しみを体験されてきて現在の事業の状態はいかがでしょうか。

 

まだまだ力が足りなくて、もちろん今でも苦しい思いばかりですよ。それでも幸せな状況だと思います。スマートマスクが、ニューヨーク タイムズ紙に特集されて、これから成長が期待されるロボット業界で、海外でも ある程度の認知度を得られたんです。本当にラッキーですよね。

○ ニューズウィーク誌(世界版)

○ ニューヨークタイムズ紙(2020年7月28日)

 

次のプロダクトを発表する時に「あの話題の商品を作った会社の新商品だ。」と認識して貰えるのは大きいかもしれないです。

これからも日々前進して、ロボット業界のAppleやdysonと呼ばれるようになりたいです。

 

-ビジョンがとても大きいですね。

今の力では無理だし、一筋縄ではいかないので、何度もチャレンジする事になると思います。 僕は、事業は普通にやれば失敗するものだと思っているんです。根拠なく成功すると思っているよりも、失敗を前提として致命傷を負わないようにする事が大事だと考えています。普通に進めば失敗するであろうスタートアップを、どうすれば100年後まで生き残れるのか?・・常に考えていきたいです。

○ ドーナッツ ロボティクス メンバー

 

これからの100年を生き残る為には、GAFAのような巨大企業からの出資が必要かもしれないですね。

彼らのように大きな力を持つ企業や、その株主が「どんな世界を作ろうとしているのか」を察知して、その世界に必要なプロダクトを先に普及させられれば、彼らとの提携も成立すると考えています。

僕達は本当に小さな企業ですが、年明けの「CES 2022」に出ますし、来年には世界企業との提携発表も予定しています。少しでも僕達の元気が、周りに伝われば嬉しいですね。

 

-本日インタビューしたドーナッツロボティクス株式会社様の情報-

会社ロゴ

会社HP

https://www.donutrobotics.com/