2011年3月創業。OMOソリューション事業を手掛け、日本初EC型インバウンド免税サービス「Tax Free Online.jp」を展開し特許取得。他にもテレビに衣装協力をする協力者とスタイリストをマッチングするオンラインショールーム「STYLIA」と放映後にテレビに出た衣装とユーザーをマッチングする「コレカウ」を展開。また、アパレル業界のペーパーレス化を進めるべくSaaS型伝票レスシステム「POPPO」を提供している。「考えるために動く」「変化と継続の調和」「知恵比べをする」「瞬発力第一」「物事を逆さに捉える」を行動指針に、常に新しいことにチャレンジしている。
アイエント株式会社 代表取締役 大森智人
経歴:
1966年栃木県生まれ。インクスでシステムコンサルタントとして製造業向けプロセス改善に関わる。05年楽天に移り、08年開発理事に就任、新サービス立ち上げやシステム開発現場共通の品質管理、開発効率化を担当。11年にアイエントを設立。
◎前職では楽天株式会社に勤められてたんですか?
当時の楽天は36のサービスがあり、僕が所属していたDU(Development Unit)は、それらサービスに縦割りで付くチームと、セキュリティーや品質テストなどすべてのサービスを横串で対応する部署があり、僕はその横串部署の責任者をしながら複数のサービスを兼務していました。
◎楽天から独立されたのは何かきっかけがあったんですか?
きっかけは幾つかありましたが、現在事業として行っている「コレカウ」というサービスを運営するために独立しました。
◎創業はご自宅でされたとお伺いしましたが、この当時は1人でされてたんですか?
そうですね。創業は自宅登記でした。
実は青山一丁目にオフィスを借りる準備ができていたのですが、よく考えればサービスローンチまではオフィスは不要だと思い、一旦キャンセルし、知り合いのオフィスに席を用意してもらったりして(笑)、ましたが、一人ということではなく協力者はおりました。
その後サービスローンチの際に、そのキャンセルしたオフィスを借りました。
◎いま展開されている「コレカウ」というサービスはどのようなきっかけから立ち上げたサービスなんですか?
きっかけは、自分が欲しいと思ったからです。たまたまドラマ撮影現場を見る機会があり、そこで行われていた衣装合わせという現場があまりにもアナログな印象で、かつ多くのリソースが関わっており、デジタル化することで関係者すべてが報われるのではないかと考えました。
◎実際に現場ではどのような部分がアナログだと感じましたか?
ほとんどのことが紙でやり取りされていて、データ化されていないのです。
要は私達みたいに新しい物好きの人たちはテレビで見た物などを欲しいと思ったりするんです。例えば、キムタクが「HERO」で着ていた革ジャンなども私は買いましたが、実際に探してみたら結構大変だったんです。同じように、テレビを見て欲しいと思った人たちがテレビ局に多くの問い合わせをするのですが、テレビ局はその問い合わせに対して十分には答えられないのです。なぜなら、スタイリストさんが持ってくる着用情報は紙でやり取りされているだけなので、データとしてどこにも残されていないのです。そういったアナログな世界でした。
ここをデジタル化するというのを最初に考えました。また、当時(2011年)はすでにスマホが普及してましたので、電話での問い合わせではなくネットで検索する人が増えるだろうと思い、コミュニティサイト「コレカウ」を作ろうと思ったのが最初の発想です。
◎サービスを開始した当初はどうでしたか?
このサービスは着用情報をどんどん載せていきます。このテレビドラマなど番組衣裳の情報は、テレビ番組というコンテンツが無くならない限りネタには困りません。ここがこのサービスの強みにもなります。通常の自社サイトだと商品を作り続けて、商品掲載して、PRを考えて販促させる必要がありますが、「コレカウ」の場合には毎日のようにネタが作り続けられ、毎日のように新しいコンテンツが作れられます。ただ、ネタに困らない一方ではその情報をどうやって入手するのかというのが重要でした。
◎情報はどのように入手されたんですか
情報を持っているのは、借りるスタイリスト、貸すブランド、使う番組制作者、この3者だと思い、それぞれから情報をいただけないか依頼しました。
しかし、いずれも様々な事情からそれが出来ない、ということがわかり、まずは自分で探すことからスタートしました。
◎実際にそこでスタートしてみてどうでしたか?
実際にやってみて1つわかったことが、回答するスピード感が重要だということでした。
ユーザーがテレビを見て欲しいと思った時に情報が瞬時に入るのと、そこから数日間待たされてから入るのとでは購入に至るまでのコンバージョンが全然違ったのです。情報も事前にいただけないし、後追いで探していてもサービスとしての価値が低いと考えて、自分で情報を生み出す側に回る必要があると考え「STYLIA」というWebショールームサービスを作りました。
スタイリストさんはテレビで表に出ることはありませんが、ファッション業界では重要なキーマンです。インフルエンサーではありませんが、裏でタレントのコーディネートをしているのでこの人たちは重要な存在なのではないかと考えました。スタイリストさんの多くはフリーで動かれていて、このような方々をネットワークでつないでいる会社様がなかったので、そのプラットフォームを作ることも目的にしました。
サービスの主軸としてはスタイリストさんにweb上のショールームを提供しました。スタイリストさんは街の中で大きなバッグを抱えて衣装を借りに行き、電話や紙でやり取りをされます。そのやり取りを全てなくしてwebで借りたい衣装をリースできるようにしました。これが「STYLIA」です。スタイリストの利用に関しては無料できるようにして、無料で便利なサービスを提供する代わりに、衣装合わせが終った時の衣装の採用情報をwebに入れてくださいとお願いしました。これにより、リースをした人にも採用されたのかされなかったのかの結果がデータで戻る仕組みになっています。
そうすると採用情報がどんどん入るようになるので、この情報が放送前に「誰が、どのブランドの、どの商品を着る」という情報が入るようになります。我々はこれを前メタと呼んでいます。この前メタが「コレカウ」に連携して放送直後に掲載できるようになっています。なので我々は事前に衣装情報を把握する事ができるのです。
◎「STYLIA」に登録している店舗はどのように選定しているんですか?
衣装協力をしてPRを行い販売につなげたいという事は、多くのブランド様が思ってることなのです。但しそれが自社だけで出来るブランドさんは、基本的には渋谷などの都心部にショールームを持っている限られたブランドさんになります。それが自社だけでは出来ないようなブランドさんにも私たちはどんどんお声がけさせて頂いて、どこであってもサイトにさえ写真が掲載できればスタイリストにリースできますということで営業活動を行っていました。
◎スタイリストさんはやっぱり東京などの都心部に多いんですか?
そうですね。基本的には東京などの都心部にいらっしゃることが多いです。もちろん地方にもスタイリストの方はいます。ですが自分がコーディネートした衣装が反響を生むような実績が欲しいという目的があることを考えると主要テレビ局が集まる都心部に集中するのだろうと思います。
◎新しいサービスを作るという点において、大森様もエンジニアとしての経験があるので強いと感じましたが、開発する中で大変だったことはありましたか?
そうですね。もちろん開発自体も大変なことはありましたが、何よりもサービス自体がまだ時代的に早かったというのがありました。このサービス自体は10年前から行っているので今でこそこのようにお話させて頂いてご理解頂けますが、10年前にこのようなお話をさせて頂いても理解してくれる方がほとんどいませんでした。なのでサービスの認知にはなかなか時間がかかっていますが、いまでは販促をしなくてもコレカウのユニークユーザーは800万人を超えています。
いま「STYLIA」の方では物流も各々やって頂いているので将来的には一本化したいと思っています。そうするとスタイリストさんにはさらに便利にご利用頂けると思います。昨今では大手企業でもプレス業務を廃止してECの販売事業部と統合するようなイメージで効率化が進んでいます。これから配送も承ることが出来れば、データのやり取りだけで完結することが可能になります。
これまでもファッション業界ではデジタル化が進まないことが課題として上げられていたので、この部分にもさらに貢献できるようになれたらと思っています。
◎新しく「POPPO」というサービスも開始されましたよね?このサービスの背景にはどのようなことがありましたか?
こちらは2020年にリリースしたサービスになります。ちょうどコロナが始まった時期です。
このサービスの背景は、ある大手アパレル企業様と話をしている中で、店舗の紙をなくすことが課題である、と伺ったのがきっかけです。
確かに、私達顧客は、店舗から「取り置き伝票」「取り寄せ伝票」「お直し伝票」など、紙を渡され、店舗から電話がかかってくる、というのが店舗と顧客との連絡手段になっています。これが30年くらい続いているとおっしゃられていました。
この「紙」と「電話」を用いるというのは、まさに現代には合わないと考え、それを解決するアプリ「POPPO」を開発しました。
POPPOは、店舗がアプリを利用し、お客様にはSMSで通知するという仕組みです。お客様に新たなアプリをダウンロードしてもらう必要もなく、連絡に電話をかける必要もないので、店舗スタッフにとっての精神的負担が軽減されます。
また、SMS通知は一斉に入荷通知などもできるので、時間的効率も劇的に向上します。
店舗あたり月額数千円というSaaSモデルなので導入コストも紙を購入する価格と変わらずご利用いただけます。コロナ禍により店舗運営もニューノーマルな時代、店舗内を混雑させないとか、お客様をお待たせしないとか、そういったDXが必要であると提案しております。
◎また別で「TFO」というサービスもされていますが、あまり見たことがないビジネスモデルですね。
そうですね。これは特許を取得しているビジネスモデルです。もともとPRの世界で事業をやってきて、販売の所でも何か力になりたいと思っていました。そうすると新しくモールを作るということになるのですが、このタイミングで新しくモールを作っても競合で「楽天」「amazon」「ZOZOTOWN」と勝負をすることになります。ここは厳しいと思うんです。恐らく日本人を相手にしても難しいと考えました。そこで考えたのが、訪日外国人向けのサービスです。このサービスの開発を手掛けた時はまだ2015年頃でまだコロナの前でした。そのタイミングではインバウンドがどんどん伸びてきていて、EC化率も成長していました。ただ、このインバウンドとECは全く繋がっていませんでした。それは免税市場にEC事業者さんは参入出来なかったからです。免税を実際に行うにはリアル店舗に行く必要があるというのが日本の法律なので、これを何とか繋げられないかと思いました。
免税では、購入者がインバウンドの旅行者であるかどうか(免税対象者の要件を満たしているかどうか)を確認できることが法律的には重要です。その確認をするためにリアル店舗でスタッフが対面する必要があると考えられています。楽天などのECサイトでは注文して決済して後から物が届きますが、このタイミングでは免税にはできません。これは今でも同じです。なので注文をするのと決済して物を渡すのを別に考えて、「Tax Free Online.jp」で日本に来る前から予め注文をしておいて、日本に来た時に対面で物を受け取って決済と免税手続きをすれば、オンラインでも出来ると考えたのです。
そうなるとどこで受け取るのかというのが重要になります。なので宿泊施設や空港とか訪日旅行者が必ず立ち寄るであろう場所で受け取れるようにすることが、何より旅行者にとって便利です。また、免税手続きをオンライン化することで、旅行者自身のスマホで免税手続きができるようにしたことも利便性が劇的に向上しています。
そしてローンチして2か月後にコロナがきました。笑
◎インバウンド向けというのもありコロナの影響は大きかったと思いますが、どうでしたか?
実際大変ですが、サービス自体を見直しインバウンドが戻ったときに、より便利にご利用いただくため開発もずっと継続し改善し続けています。勿論、外国人スタッフも雇用し続けています。
◎そこで海外の企業とも業務提携を結ばれたんですね
そうです。中国国営の旅行会社様や、日本では株式会社エイチ・アイ・エス様と豊田通商株式会社様と提携しました。海外の方が日本に来るときはツアー、または飛行機とホテルの予約、国によってはビザ取得などを行いますが、そのタイミングでこのTFOを紹介してもらうことがPRとしては最も効率的だと考えたのです。全世界のすべての人にプロモーションする必要はなく、日本に来られる方にのみ知って貰えば良い訳ですから、海外の旅行会社や航空会社などと連携していきます。
◎将来のビジョンなども教えてください。
まずは日本が、観光大国としてコロナ禍でも安心して免税でお買い物をしていただきたいと思っています。お買い物時間を効率化し、空いた時間で観光やコト消費を楽しんでいただきたいです。そして、同じモデルを海外にも展開できれば、日本人が海外に行った際にも宿泊するホテルでお土産品が受け取れるようになります。オフラインでしか出来ない、オンラインでしか出来ないという境目をなくし、弊社のビジョンであるOMOで世の中を便利にしていきたいと思っています。
‐本日インタビューしたアイエント株式会社様の情報‐
会社HP:https://ient.co.jp/
STYLIAサービスサイト:https://stylia.korecow.jp/about/
コレカウサービスサイト:https://www.korecow.jp/
POPPOサービスサイト:https://e-poppo.com/pr/
TFO(Tax Free Online.jp)サービスサイト:https://www.taxfreeonline.jp/pr/