鳥の目、虫の目でプロダクトを成長させていく。 – アライドアーキテクツ株式会社 取締役 村岡 弥真人

今回は国内外でマーケティングDX支援を行う、アライドアーキテクツ株式会社、取締役の村岡弥真人様にインタビューを行いました。

 

アライドアーキテクツ・グループは、日本、アジア、欧米に7つの拠点を持つマーケティングDX支援企業です。2005年の創業以来累計6,000社以上への支援を経て得られた豊富な実績・知見を活用し、自社で開発・提供するSaaSツールやSNS活用、デジタル人材などによって企業のマーケティングDXを支援しています。

 

特に、「Letro」は、企業のダイレクトマーケティング施策へのUGC活用を支援することで、売上成果向上につながる国内No.1「UGC活用ツール」です。食品や化粧品の大手通販メーカーをはじめとする多数企業の売上成果向上を実現しており、化粧品通販売上高ランキングトップ25社のうち半数以上の企業でLetroが利用されるなど、高い評価を得ています。

 

※UGCとは、インスタグラムの投稿やECサイトのレビューなどのお客様の声全体を指す言葉です。

村岡 弥真人 -アライドアーキテクツ株式会社 取締役-

経歴:

大手ガラスメーカーを勤務を経て2012年にアライドアーキテクツ入社。2014年よりSNS広告に特化した広告代理事業を立ち上げ、自社最大の事業まで事業拡大を行う。2016年にUGC Centric Creative Platform “Letro”の提供を開始、Facebook及びInstagramのオフィシャルパートナーに。2017年より自社プロダクト事業全体の統括を行い、ベトナムの開発子会社2社の経営も兼任。2018年CPOに就任。2021年取締役就任。

 

Letroの開発のきっかけは何だったのでしょうか?

私は元々当社の広告代理事業の立ち上げに携わっていました。事業を運営する中で、成果が上がるほど広告費も多く使ってくださるので、収益も増えるのですが、その一方で業務量も比例して増えてく事がわかり、広告事業というのはいわゆる労働集約型のビジネスモデルということに気づきました。

 

収益が上がることは良いですが、労働集約型のビジネスは市場にも私たちの健康にも今後のキャリアにもあまり良くないと考えまして、この課題の解決を図ったのが最初のきっかけです。

弊社は元々自社プロダクトの開発も行う会社だったので、広告事業部にもエンジニアがいました。そこでエンジニアに協力をいただいて、作業の自動化、効率化をできないか検討し、ツールの開発がスタートしました。

 

結果的に、開発したツールを活用したことで2人で8時間かかる作業が0分になるまで減り、それくらい単純なことを人の力に頼っていたと気が付かされました。

 

この経験から代理店や広告主でも類似した環境下に置かれていることが想定できるにもかかわらず、広告に注目したプロダクトやテクノロジーがほとんど存在しないことに気づき代理店事業の傍らここに価値提供できないかとMVPとして始めたのが一番最初です。

 

SaaSを立ち上げようといった大義ではなく、エンジニアの工数が余っていたので本業の傍らビジネスとして成立したらいいなくらいの気持ちでやっていたのが最初でした。ここからUGC活用ツール「Letro」がスタートしていくわけです。

広告事業の運営とLetroの立ち上げ、業務量が増えて大変ではありませんでしたか?

それがあまり増えませんでした。というのも、Letroは広告運用やダイレクトマーケティング施策の延長線上にあります。

全く別のラインで新規事業を立ち上げたわけではなく、既存の広告代理店業務から既存のお客様の一部をLetroでトライさせていただいて、仮説検証していくことができました。そのため、仕事も特段増えた訳ではありませんでした。

 

どのくらいの広告主様で仮説検証を行ったのですか?

今でこそUGCはマーケティング施策において一般的なものとなりましたが、当時はUGCを企業が使用することは当たり前ではなく、UGCを企業のWebサイトや広告のクリエイティブとして使えるかどうかということを誰も知らなかったので、これを検証することから始めました。私はUGCを使用すれば成果が出ると確信を持っていましたが、当時はそのような考えの企業は1社もいなかったので、まずは説明するところから始めましたね。

 

なぜ、村岡様は成果が出るという確信を持てていたのでしょうか?

理由としては簡単で、広告の運用をしている時一番成果が上がるSNS広告のクリエイティブは作りこんだ広告クリエイティブではなく、少しカジュアルな、ユーザーが投稿したように見えるものであることが分かっていました。

 

なので、本当にユーザーがSNS上に投稿しているコンテンツを活用したらより効果が上がると仮説を立てていました。

これをお客様に論理的に説明をしていました。

 

納得していただけた後はどのように検証を進めていくのでしょうか?

広告主様に可能性がありそうと考えていただけたら、次はユーザーが投稿の使用許可が得られれるのかの検証に移りました。広告主側からOKが出ても、ユーザーが投稿の使用許可を出してくれなければこの仕組みは破綻してしまうので、使っていいですかと聞いたときに何割が許可してくれるかを試しました。

 

結果的に7割8割がOKと返ってきたので、これはユーザーとの相性も良いと思いましたね。次に初めてどのように広告クリエイティブやウェブサイト上にに使おうかという具体的な話をしていきました。

 

最初はお客様が同意してくれるか、次にユーザーが許可してくれるか、そして、最後に自分たちが想像している成果が出るかを検証するということを順々にやっていました。

 

構想から開発までは特に何も問題はなかったのでしょうか?

特に開発までは問題はありませんでした。私は、事業を運用をしていってビジネスとして成長するかどうかを考えた時にはじめてピボットの機会が生まれると考えています。

 

経験則上、スタートアップ企業はローンチ前後は新しいものが好きな層や、流行に敏感な層が入ってきてくれます。なので、自分たちもトレンドをキャッチできたと思ってしまいがちです。私たちもUGCのサービスに最初から飛びついてくださった方は流行に敏感な先見的なマーケターが多かったと思います。しかし、市場というのはこれらの人以外の99%で構成されていることに気が付かなければいけません。

 

最初から興味を示してくださる人が良いと言っても、残りの人が必ず良いというかがビジネスが成長するかどうかの境目だと考えています。ですので私たちも、ローンチ後に課題や障壁に気が付いたということはありました。

 

村岡様はどのような市場の声に影響されてサービスのピボットを決めたのでしょうか?

マーケティングの世界では何かを実行することは手段であって、ゴールではありません。一番大切なのは、UGCを使うことではなく、使った先にどのような課題が解決できるのかです。顧客もこの課題が解決しないことに対してお金は払ってくれません。

 

これを分からないまま当時は「UGC を使うことって素晴らしいですよね」と手段を目的すり替えてお客様に販売していました。なので、広告主側でもUGCを使う明確な目的がないため、UGCの活用が止まってしまうのです。

 

最初に使ってくださった方々にも、「本当に効果が出たか厳密にわからない」、「使っている時とそうでない時の圧倒的な差がわからない」と言われてしまい、新規の受注が伸び悩み始め、解約が爆発的に増えてしまったタイミングでビジネスモデルの変更に踏み切りました。

 

そこからはUGCによってどんな課題が解決されるのかをを定義されたのですか?

そうですね。マーケティングの世界ではROIが可視化されない施策は重宝されません。例えばテレビCMは効果が可視化されづらい施策と言われており、1億円投下してもそのCMがどれくらい直接売上に貢献したのかが分かりづらいものです。広告主には100万円投下して、1000万円売れた、のようにROIが分かりやすい施策の方が受け入れられます。

 

では、UGCの成果が分かるところはどこかを考えたときに、WEBサイトにUGCを入れて、購入率であるCVRがどう変化したかを見ることが一番だと考えました。

 

マーケティングの手段は時代と共に増えてきていますが、企業が感じている課題はあまり変化がありません。具体的にはWEBサイトに来てくれた人が購入してくれない、広告がクリックされない等です。

 

そうしたときに、今までは「UGCを使うこと」を最終目的にしていたのですが、「UGCを使った結果、企業が抱える定量的な課題を解決すること」をゴールに決めました。これが一番最初の意思決定です。

 

ゴールが決定した後は何を決めたのでしょうか?

LPとECサイトにUGCを掲載して、何をすればこのLPとECサイトの成果改善がなされるのかを考えました。例えば UGCが 見られた数やクリックされた数が、掲載された場所で変化する可能性があります。この変化を基に、自動的に最適化する機能を作ってみようと考えました。どの指標が大切か、どう作ればどれくらいの成果改善ができるのかを、言語化できるまで仮説検証を繰り返してプロダクトに反映させました。

 

作業量も多く、仮説検証すべき事象も多いので、どの仮説が重要でどれから先に検証すべきかを順番をつけることが最も大切でした。対照実験をすることが大切で、複数の仮説を同時に検証してしまっては何が当たったのかが分かりません。

 

A,B,Cの仮説を同時に行うのではなく、「Aの結果をもとにBの検証を行い、さらにCの検証をする。」というサイクルをいかに高速で回すか、そしてこの検証順序を間違えないかがプロダクトオーナーに求められている能力だと考えています。

 

私たちの場合、まずお客様と一緒にUGCの有無でCVRが変化するかを確認して、次にどのUGCがCVRが高いのかを一つ一つ検証していきました。なので、作業としては売上が0円の新規事業であっても売上が100億円の巨大な事業であっても検証の総数はあまり変わりません。変わるのは、検証する課題のレベルです。

 

この時に、解決しなければならない課題を発見して、そこに全力を注ぐという経営判断をすることが必要であって、膨大な課題に向き合うことが大切ではありません。その業務量もマネジメントすれば良いかなと思っています。

検証を失敗してもやり続けることの難しさの中で、続けられる秘訣はありますか?

新規事業の仮説は間違っていることが当たり前です。一番やってはいけないのは、検証できていない仮説をプロダクトの機能として実装してしまうことです。仮説検証の段階で間違いに気が付けるのは幸せですね。

 

私は長年広告事業を行っていたので、広告成果を改善するために日頃からクリエイティブや訴求のABテストを沢山していました。これを繰り返せば成果の改善に繋がる、成功に繋がるということを知っていたことがアドバンテージだと考えています。

 

仮説検証で何を得たいかは人それぞれです。また、事業ステージによって検証する内容も、その結果からプロダクトのピボットにするか、ビジネスモデルのピボットにするかも変わります。それらを理解したうえで、適当な仮説検証をくりかえしていくことが大切です。

 

仮説検証が終了後はローンチ準備ですか?

お客様が10社くらいできて、このまま営業活動ができそうという見通しが立った時点で、それまでクローズドでやっていたサービスを表に出した形になります。

 

そこでも仮説検証はさらに続けて、小さい事業を成長させていったのですが、根本的にしている作業は「仮説検証」であって、変わりませんでした。事業規模に応じて、それに合わせた検証をしていきました。したことは極めてシンプルで、プロダクトの提供する価値をどうすれば高められるかを考えていただけです。

 

より高い価値を提供するためにはどのような市場課題が存在し、それに対してどういう機能、サービス、コミュニティを提供できるのかを考えています。その検証手段として、営業活動やお客様に会いに行くこと、開発者と向き合ってプロダクトの状況確認をしていきました。事業規模に応じて向き合う情報の粒度が細かくなったり、より多くの人から情報収集しなければならなくなりますが、原理原則としてプロダクトに向き合っていく姿勢はかわりません。

 

事業を進めていく中で困難なことはありましたか?

一番最初にビジネスモデルをピボットした時期は、その前日まで営業が順調だったのに急に、解約するお客様が続出し始めて機運が悪くなってしまった時期でした。

 

今考えると、課題解決ができたので良かったですが、値段、営業方法、機能、開発方法など全て変更したので一番大変でした。仮説検証が終わるまでは事業も成長しませんでしたし。

 

どれだけ困難でも、Letroに愛を持ってくださるお客様がいたり、私たちの中でも頑張りたいという気持ちがあったので、お客様に会いに行って話を聞いていました。そうすることで遅かれ早かれ解決策を探し出せると考えていました。

 

お客様に会いに行くことで困難を乗り越えていらっしゃったんですね。

そうですね、加えて私たちは「鳥の目、虫の目」を大切にしています。一番の経営の間違いは俯瞰してみたものだけで物事を判断し、現場に落とすことだと考えています。現場の目線を無視して物事進めようとしても、現場の理解は不十分です。

 

大変な時こそ現場の状況を確認してボトルネックを一緒に考えています。鳥の目と合わせて意思決定できるのは私だけだと思うのでしっかり両方を意識するようにしています。

 

魅力的なサービスでもお客様のコンセプトに沿わないと使っていただけません。使いやすいと思われるサービスは綺麗な、美しいプロダクトではなく、使っていてストレスが無いプロダクトです。鳥の目で見えるのは、美しいコンセプトや解決すべき課題なのですが、虫の目で見ることができるのは、どのようにこのコンセプト、課題にフィットさせるかの点です。

 

経営者は鳥の目、虫の目を往復しなければならない、そして、この往復をどれだけ速く、正確にできるのかが求められると考えています。

 

どのようにすれば両方の視点を得られるのでしょうか?

長年広告の現場で事業を運営をしていたので、私が持っていたのは虫の目だけでした。しかし、虫の目だけでは事業は労働力に比例してしか成長しないことに気が付いたときに、周りの経営陣は鳥の目を持っていることに気が付きました。

 

お客様が見えているようで見えていない部分に対して、施策を出さなければ競合他社にも勝てませんし、想像できないような成長もできません。これに気が付いてから、弊社の強みとして利益率が悪い部分や、他社がやりたがらないところに力を入れて、広告事業をリブランディングしたことがきっかけで鳥の目を意識するようになりました。

 

鳥の目を得るためにできることは、自分よりも視野が広い人に乗っかって同じ景色を見ることだけだと思っています。まずは疑似的に同じ景色を見せていただいて、自分とのギャップを知るということ大切です。その後は模倣して、その人たちと同じ高さまで飛べるように背中に載せてもらう努力や、情報収集する努力、人間関係を作る努力を自分でしなければいけません。

鳥の目を作るにあたって、情報、人脈、マーケットの再現性をどのように読むのかが大切です。私の師匠に教わったこととしては、形は変われど歴史は繰り返されるということでした。今のトレンドが今後どう変化するのか、色々な情報収集をして、それを自分なりに解釈をして未来を定義するというトレーニングを重ねることで鳥の目を得ることができると思っています。

 

ー今回インタビューを行ったアライドアーキテクツ株式会社様の情報ー

会社HP

https://www.aainc.co.jp/