ストレイムアートアンドカルチャー株式会社は、絵画などのアート作品のオーナー権を分割し、複数人が少額から購入できるアートプラットフォーム「STRAYM(ストレイム)」の開発・運営をしています。アートマーケットを再構築し「アートで楽しくなる世界」の実現を目指しています。
アートは1人が保有する物という概念を「アートの共同保有」の考え方で覆し、日本人にアートを身近な存在へと変えるサービスを展開されているストレイムアートアンドカルチャー株式会社の代表 長崎 幹広様に「会社設立までの流れと、意識している事」について伺いました。
長崎 幹広 - ストレイムアートアンドカルチャー株式会社代表取締役/創業者
経歴
1998年3月 成城大学卒
1998年4月 総合広告会社・旭通信社(現ADK)入社
2005年7月 クリエイティブエージェンシー・「風とバラッド」参画
2006年12月 クリエイティブエージェンシー・「kazepro」共同設立
2015年4月 エンタテインメント会社・「パープル」設立
2017年9月 「ストレイム アートアンドカルチャー株式会社」(前身はSMADONA株式会社)を設立。より多くの人がアート作品に関与する世界を創り出したいと一念発起し、2019年12月にアートの共同保有プラットフォーム「STRAYM(ストレイム)」をローンチ。
「1 to Them」で生まれたストレイムアートアンドカルチャー
-アートの共同保有プラットフォームというアイデアにはどのような経緯でたどり着いたのでしょうか?
構想を練り始めたのは2018年頃です。ただ、今のサービスに至るまでには様々なサービスを考えていて、辿り着くまでとても時間がかかりました。
1番最初はスマートドネーション株式会社という名前で、著名人やアーティストの方が寄付したい先を選んだ上、大切にしているモノなどで寄付を募る目的をもって出品していただき、それが欲しいファンやユーザーは一口100円〜「いいね!」を押す事で抽選券を獲得する事が出来、そこで集まったお金を出品者が指定した場所に寄付されるというサービスを作ろうと構想していました。
しかし集まったチームのバックグラウンドのノウハウなどを持ち出し幾度も議論を重ねていくうちに、別の方法で「小口スキーム」を生かしてアート市場に改めて目を向けることとなりました。
日本は他国と比べてGDPで換算しても、アート市場があまりにも小さく、それでは日本に存在する豊かな才能を持つアーティストの活躍の場としては良い環境とは言えない状況です。そこでもっと多くの人がアートに関心を持って、作品を購入してアートに関与していく事で、アーティストの創作活動のサポートが出来ないだろうかと考えました。さらに創業陣と話し合いを重ねた結果、アートのオーナー権を共同保有して、皆んなで持ち合うというサービスがあれば、アートが抱えるより多くの問題解決を出来るのではないかと思い、2019年12月3日に「STRAYM(ストレイム)」のサービスをスタートさせました。
-最初からオーナー権の共同保有という考え方を持っていた訳では無かったのですね。
2017年の9月にサービスに先駆けて会社を立ち上げていて、「どういうサービスを作るか」の選択肢を幾つか考えていました。
当時からアート関連の事業の可能性は感じており、一方ではアート作品を右から左に流すサービスであれば既存のギャラリーと同じで、面白味に欠けているし、目的であるアートマーケット拡大に繋がっていかないと考えていました。
そこで、どうすればアートのマーケットが広がっていくのかと考えた時に、一番は色々な人がアートのシーンに参加しなければいけないと思いました。
従来アート作品の取引というのは「1つの作品を、誰か1人が購入する。」というマーケットで「1 to 1」の考え方でしかビジネススキームが作られていませんでした。しかし「1 to 1」の考え方を「1 to Them」の考え方に変えれば飛躍的にアートに関わる人達が広がって行くと考えました。
「1 to Them」の考え方に変われば、アーティストにとっては作品を生み出す機会が増え、作品を買う人にとっては色々なアートに携わる機会が増えます。
更に買う人に対して「このアーティストの作品だったら買いたい」という気付きも与える事でマーケットを大きくできると考えていました。
-マーケットの事だけでなく、アーティストの事も考えていたんですね。
当初はアーティストの方々を絶対的に支援しなければならないと思っていた訳では無いですが、アート作品自体は「創り出す人」がいなければ継続していかないので、アーティストを大事にする事を前提に考えていました。また結果的に頑張っていらっしゃる方々にはその事自体が基本的に評価され還元されるべきだということは常々考えてきましたのでブロックチェーン技術は始めから導入する予定でした。
2005年に当時7人の先輩クリエイターの方々とお金を出し合って、今で言う「クリエイティブ・ブティック」に参加させて頂いたのですが、そこで多くのアーティストの方と触れ合うようになりました。
しかし我々が触れ合うアーティストの方々は既に売れていて、何の問題もなく生活されている方々がほとんどでした。会話を重ねる内に、そのようなアーティストさん以外の多くのアーティストは苦しい状態にいる事を知りました。
アーティストの方々が感じる苦しい環境を2005年以降に少しずつ知っていった事で、アートを購入する人を飛躍的に増やさなければいけないとは感じるようになったんだと、今になってから思います。
当時は現在のビジネスモデルに気がつけていなかったので、私自身「アートは1人の人が持つべきだ」と言う常識論に拘っていました。実際にその考え方をもとに展示会へ足を運び、絵を購入したり、カメラマンから写真を購入したりしていました。
これらの発想や行動をしてきたからこそ、また素敵な仲間に巡り合えたからこそ、現在のビジネスモデルの「共同保有」に気付けたんだと思います。
-設立されてからまず、どのような行動をなさいましたか?
まず1年半はどちらかというとリーンスタート的な発想で、そこまでの広告費はかけずに、サービスがどこまで認められるのか、アートマーケットにプロダクトがフィットしていくのか、を慎重に見ていました。
プロダクトはマーケットにフィットしなければ何の意味もありませんし、プロダクトマーケットフィットが起きなければ、市場を作り出せるわけがありません。
その結果、ある程度のアートのファンが興味を示してくださいましたが、知名度は伸び悩みました。
現在は広告も少しずつではありますが出稿し始めており、これからさらに飛躍的に会員数・作品数を増やしていくというフェーズに入っています。
-そういった計画は設立の前から考えられていたんですか?
そうですね。
ある程度事業を立ち上げる前に「どういう計画でいこう」と目論見があって初めて事業が成り立ちますよね。
それよりも、計画したスケジュール通りに出来るかどうかが、大事だと思います。
絵にかいた餅になるのか、スケジュールと追いかけっこしていくのか、意外と早く進められるのか、常にバランスを取る必要があります。
-長崎様からすると今の事業はスケジュール通りですか?
ほぼオンタイムだと思います。
もっと早く進めたいとは思っていますけどね(笑)
-最初、事業に対して反対の声はありましたか?
反対の声というより「アートって1人が持ってこそ初めて価値があるんじゃないのか」「アートの共同オーナー権なんか売ってどうすんの?」というような意見は少なからずともありました。
ただ「目新しいサービスだからいいんじゃない」「アートってこれからのキーワードにもなるし面白いじゃん」と応援してくれた方々も勿論沢山います。
-伝わらなかった時はもどかしい思いがありましたか?
そうですね。
でも伝わっていないというのは我々がブランディングや企画内容を詰め切れていないという事なので我々に文句を言う権限は全く無いと思っています。
当然最初はギャラリーさんをまわっても相手にされませんでした。
我々のサービスにアートを出しても、売れるかどうか分からないし、そもそも商流が今まで違うので理解をなかなか得られませんでした。現在は多くの方々に参加していただいたことで、ある程度商流としてはギャラリーさんにも信用して頂いていると思っています。今では業務提携して頂いている大手ギャラリーさんもいらっしゃいます。
この「信用」というのは本当に1つ1つの積み重ねですが、着実に積み重ねることが、我々が目指してるゴールへの近道だと思っています。
飛んでゴールに辿り着くことは出来無いので「地道にやっていく」しか方法はないんです。
大事な部分を地道にやっていなければ、作り上げてきたモノが崩れてしまう可能性もあります。土台ってやつですね。
なので「遠回りになるかもしれないが、その遠回りが1番近道なんだ」と思って毎日事業を続けていくしかないと考えています。
-長崎様の「地道にやっていく」とはどのような事でしょうか?
ギャラリーや、投資家の方々に時間が許す限り足繁く通う事、悩んだら専門家にお会いしにいく事、サービスをよくするための緻密な会議、サービス自体をブランディング、ブラッシュアップするという事は当然の事ですが日々行っています。
ブランディングは1日では成り立たず、日々更新しなければいけない部分です。
どういう見方を現状されているのか、どういうコミュニケーションをする必要があるのか、どうお客さんに見られていれば自分たちが少しでも輝いて見えるのか…などたくさんの事を考える必要があり、毎日議論になっています。
企画書の作成やその他にもやることは多々あるので根気が必要ですが、事業を立ち上げた人で「成功しないでいい」なんて事を思っている人は誰もいません。
なので「成功するために何をすればいいか」と苦労する事は普通の話だと考えています。
-苦労している中で頑張れる理由はなんでしょうか?
やはりこの事業が成功した暁に、社会にどのような存在意義を創り出せるのかという理念やミッション、ビジョンのようなものがあるからだと思います。
例えばになりますが、タンポポはとても生命力が強い植物と言われていて、厳しい環境下でも綺麗な花を咲かせますが、理由は最長1m前後まで深く根を張る直根性の植物なので強いと言われています。
会社の理念やミッション、ビジョンはこの根に近いものだと考えていて、その動機が深く、そんな世界を実現したいという気持ちが原動力となり「頑張れる」のだと思います。
また、今までに無かったような新しい動きで市場の潤滑液として我々のサービスを導入していけるのはとても面白い事だと思いますし、誰もやっていなかった事を成就出来れば最高の喜びと幸せがあると思っています。
そして、我々のチームの家族までが、将来、このサービスに関わって良かったと誇れるような世界を創造していきたいと考えています。
色々な思いの掛け合わせがあって「頑張ろう」となっているのだと思います。
-1つの成功の裏には多くの失敗があるとよく言われますが長崎様もそうでしたか?
我々も当然トライ&エラーを繰り返しています。
「こういう対応をすればよかったな」、「金額設定をこうすればもっと良い効果が得れたかな」、「販売日を火曜日より水曜日にした方が良かったのかな」など未だに悩みます。
正解はないと思っていて、動いた結果、良いものに収まっているだけだと考えています。
更に言えば1つの成功も、1日経てば昔の事になってしまうので、より良くカスタマイズしていく為にまたトライ&エラーを繰り返していく必要があると思います。
普通一度商品として出してしまった物は中々カスタマイズが出来ませんが、我々のようなデジタル上のサービスは、1秒で姿形を変えられます。
顧客満足度を上げるためにカスタマイズを日々繰り返しています。
「日本」を良く知る
-起業家・経営者の方々に長崎様が思っていることはありますか?
日本のマーケット・文化を知って、その上で世界と戦えるようになれば、皆さらに強くなるのだろうなといつも思っています。
-日本をよく「知って」ですか。
「日本はガラパゴスだからダメなんだよね、世界に出ないと」とよく言われますが、そのガラパゴスの世界は、何が良くて、何がダメなのかが分からないと結局世界に出ても失敗すると思っています。
日本のマーケットが分かっていなければ何故日本の企業が海外出てくるのかと聞かれた時に説明出来ませんし、説明できなければ、ただ日本で売れてないだけなんじゃない?と信用されません。
だから、文化の事や、今までの生まれ育った環境、おじいちゃんとおばあちゃんの代まで遡ったときの、政治的背景・経済的背景などがどうなっていたのか等を知ることで、
「どういうことだったら世の中の役に立つのかと」と考え直すきっかけにもなると思うんです。
-ビジネスする上で日本の事を知るという視点は新鮮です。
今のサービスを立ち上げる前に中国の仕事もしていたのですが、中国の親日家の方々は日本の事をとても勉強しているんです。本当に驚くほど僕よりも日本の事を知っていて、自分が恥ずかしいと思った経験は何度もあります。
アートも何故日本で売れないんだろうと考えてみた時に「日本のマーケットに出ているアートは海外でも売れるのか」等突き詰めていく事で多くの問題点が見えてきます。
更に「日本の現代アーティストはどのような立ち位置で海外から見られてるのだろう」、
「海外で評価されてるけど、日本で評価されてないアーティストを取り込む為にはどうすればいいのか」などと考え、突き詰めていけばマーケティングの仕方もどんどん変わっていきます。
なので一概に「アートだからこうしよう。」「アートだから同一の売り方していこう。」という事は出来ないです。
-一方向の視点だけでなく、海外から見た日本といった多くの視点を取り入れられているんですね。
一言でいうと「俯瞰に見る」事をしています。
自分を少し上から見てみる…自分のドローンカメラを上に飛ばしてみれば「今どういう風な見られ方されてるんだろう。」、「これが足りてない。」、「昨日あの行動しとけば良かった」と分かります。
現状を分析するだけでなく、反省する際にも俯瞰に見てみるというのは大事だと思います。
-本日インタビューしたストレイムアートアンドカルチャー株式会社様の情報-
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